SDGs「体感」ツアー in 相模原市中山間地域 2025年2月27日(木)

日差しが暖かく春の訪れを予感させた2025年2月27日、「SDGs「体感」ツアー in 相模原市中山間地域〜SDGs先進地域の取組みを五感で学ぶ〜」が開催されました。

相模原市緑区の中でも、豊かな自然に囲まれた中山間地域(津久井・相模湖・藤野エリア)には、独自の取り組みを続けるユニークな団体が数多く存在します。本ツアーは「さがみはらSDGsアワード」の各賞を受賞した6団体の各拠点を実際に巡り、SDGsへの理解を深めることを目的に実施されました。

参加者は6名(+お子さん1名)。相模原市内、町田市、多摩市、横浜市と各地から参加してくださいました。

中山間地域のテレワーク&交流拠点「森ラボ」

集合は、橋本駅前に新しくできた相模原市のイノベーション拠点「FUN + TECH LABO」。相模原市の「イノベーション創出促進拠点運営事業」として、有識者や企業、団体がもつさまざまな技術や知見を生かしたイノベーションを創出する場所として誕生しました。今後、さまざまな取り組みを実施していくとのこと。

その後、マイクロバスで藤野地域にある「森のイノベーションラボFUJINO(通称:森ラボ)」へ移動します。森ラボは「SDGs with ART」をコンセプトとした、テレワーク施設&中山間地域交流拠点。運営するアーキタイプ株式会社の高橋靖典さんからは、主に地域の仕事創出と中山間地の魅力発信、プロジェクト支援という3つに取り組んでいること、市民活動から地域課題解決、ビジネス的な内容まで、全部で24のプロジェクトが動いていることなどが説明されました。

「森ラボのサイトに、地域の求人情報を集約して掲載したり、起業したいという方をバックアップするなど、さまざまなビジネス支援を行なっています。ビジネスと暮らしのバランスをとりながら、中山間地域の地域循環が起こっていくための行政機能をつくっていくことを目指しています」(高橋さん)

相模原市初の地域おこし協力隊として地域のデジタル化支援に取り組む中島竜馬さんは、森ラボで「地域のデジタルなんでも相談会」を定期的に開催しているそう。シニア層を中心に、1年で350名が参加しているというから、需要の高さが窺えます。

「そういった場があることで、地域の困りごとや空き家の情報などを、直接教えていただけることもあるんです。とても貴重な機会だと思います」(中島さん)

入口付近には、藤野地域在住のクリエイターが手がけた「炭」「木」「野生動物の皮」などの地域の素材を使ったガチャガチャ「地産ガチャ」のコーナーも。地産ガチャで当てた木のキーホルダーをお子さんがそのあとずっと大事に握っていたのが印象的でした。

エネルギーと暮らしをリアルに結びつける

続いて「MARGINAL FUJINO」へ。廃墟になっていたホテル跡地をリノベーションしたシェアスタジオ&シェアオフィスです。ここで「藤野電力」の鈴木俊太郎さんと「NPO法人class for everyone」代表理事の高濱宏至さんからお話を伺いました。

「藤野電力」は、もともとは東日本大震災を契機に「エネルギーについて考えよう」と始まった市民活動。現在はメンバーも固定化し、月1回「MARGINAL FUJINO」でミニ太陽光発電システムの組み立てワークショップを開催しているほか、自宅や店舗のオフグリッド化の相談に乗り、ワークショップ形式での施工を請け負っています。近年は問い合わせが非常に多く、対応しきれないほどなのだとか。

「発電システムをつくってみることで、エネルギーの仕組みがわかってくる。それを暮らしの意識改革につなげていきたいというのが、活動のテーマとして大きくあります。電気を意識して使うようになると、いろいろな環境問題はすべて同じ仕組みの中で回っていることに気づいていただけると思います。逆に言うと、今当たり前に使っている電気がいかに安くて、いかに安全で気楽に使えるものかということもわかります。自然を相手にして暮らしていくことがどれだけ大変かも学べるし、それが逆に楽しいというふうにも感じていただける体験を提供しているのが藤野電力です」(鈴木さん)

「NPO法人class for everyone」は、アジア・アフリカなどの発展途上国の子どもたちにIT教育の機会を創出する取組みを行なっているNPO法人。「藤野電力」とも連携し、電気がない地域で藤野電力の組み立てワークショップも実施しています。また、最近力を入れているのが炭を原料とした蓄電池づくりです。この炭の蓄電池は、島根県松江市にある松江高専の先生方が十数年に渡って研究してきた技術。この技術を使い、相模原市の中山間地域で木炭の蓄電池をつくる実証実験を続けています。

会場には実際に作成した炭の蓄電池も置いてあり、きちんと照明がついていました。蓄電量はリチウム蓄電池に比べると50分の1程度。実用化しようと思うと、大きく重たくなってしまうのが課題です。

「ただ、中は全部炭なので、ゴミになることはないんですね。劣化しにくいという特性もあるので長持ちします。万が一壊れても、畑に撒いて大丈夫。どういうふうにつくるかを研究中ですが、大規模なものではなく、ローカルでやれる形を模索していきたいと思っています。うまくいけば地方展開もしていきたいですね」(高濱さん)

来年度からは、炭の蓄電池で小さな豆電球を灯す子ども向けワークショップを相模原市との協働事業として開催予定だそう。まだまだ可能性は広がっていきそうです。

設立10周年の記念日に訪問「MORIMO」

続いて、同じ「MARGINAL FUJINO」の地下1階にある「一般社団法人さがみ湖 森・モノづくり研究所 / MORIMO」の藤野木工所を見学しました。案内してくださった顧問の森多可示さんによると、なんとこの日は、MORIMOが設立されてちょうど10周年の設立記念日! お祝いムードに包まれた見学となりました。

MORIMOでは、津久井産材を使って、小学校に木の天板を届ける「森の机事業」、空間のリノベーションを手掛ける「空間木質化事業」、木材からトロフィーやメダルなどのノベルティをつくる「ノベルティ事業」の3つを手がけています。特に「森の机事業」は、木育もセットになっており、必ず2時間の授業で木の特性や森の効用をお話ししたあと、天板交換しているそう。

ほかにも、木を余すことなく使うための商品開発や薪の量り売りなど、取組みは多岐に渡ります。常勤・非常勤合わせて約10名の雇用も創出。地域の製材所に製材を発注したり、一部加工を障がい者施設に依頼するなど、地域全体の仕事の創出にも貢献しています。

ちなみに森さんは元相模原市副市長でもあります。なぜMORIMOの活動に携わるようになったのでしょうか。

「MORIMOが始まった2015年はSDGsの取り組みが本格的に始まった年です。ですからMORIMOもSDGsの17のゴールを常に意識して活動していました。私は、机の天板をつくって子どもたちの笑顔が見たいという代表の思いと事業内容に共感し、微力ではあるけれど力になりたいと思いました。地域の材を、どうしたらみなさんが使い勝手よく生活の中に取り入れていけるのか、その実践にかかわっていきたいと思っています」(森さん)

そして、お待ちかねのランチタイムです。里山の絶景が楽しめるレストラン「百笑の台所」で、絶品の韓国料理をいただきました。参加者みんなで大きなテーブルを囲みながら、なぜ今回のツアーに参加したのか、これまでの話を聞いてどう感じたかなどをシェアしあいました。

相模原初のソーラシェアリング型体験農園へ

最後に向かったのは、津久井地域にあるソーラーシェアリング型ブルーベリー体験農園「さがみこベリーガーデン」。耕作放棄地を再生し、農産物と自然エネルギーを同時に生産する「ソーラーシェアリング」を相模原市で初めて実現した先進的な農園です。駐車場から少し歩くと広大な敷地一面にソーラーパネルがずらっと並ぶ光景が。その下にはポットに植えられたたくさんのブルーベリーの木が並んでいました。

運営する「株式会社さがみこファーム」代表取締役社長の山川勇一郎さんとマネージャーの小出竜士さんによれば、育てる野菜や果樹が必要とする光量によってパネルの間隔を調整して設置することで、発電しながら、その下で農作物を育てることが可能となるのだそう。近年は夏の気温上昇が問題となっていますが、ソーラーシェアリングだと日陰が多くできるため、農作業する人の負担は少なく、作物の高温障害の心配もなくなります。今後は敷地を拡大し、ぶどうやいちじく、レモンの栽培にもチャレンジする予定です。

「この発電所では、現時点で312kwを発電しています。一軒家で1年間に使う電気の平均量を基準にすると、約90軒分の電気を発電していることになります。ちなみに、普段はすべて売電していますが、停電するとパワコンが切り替わって横にあるコンセントが使えるようになるんですね。これは、自治会と協定を結んでいて、非常用の電源として地域に開放することになっています」(山川さん)

時期的に、ブリーベリー狩りとはいきませんでしたが、よく考えられた仕組みにみなさん興味津々。次々に質問が飛び出していました。また、ここで収穫されたブルーベリーを使ったジャムや、受粉用に飼っている蜜蜂のつくった生蜂蜜の販売もあり、たくさんの人がお土産として購入されていました。

あっという間に時間が経った1日。仕事に活かしたいと考えている人、移住を検討している人、地元のことを知りたくて来た人、動機はいろいろでしたが、みなさん都市からほど近い里山に大きな興味をもってくれたようです。

暖かくなると楽しいイベントも増えてきます。ぜひまた再訪してもらえたらと思いました。